SEO施策の実行における最もよくある障壁は、開発リソースが限られてしまうことです。
ディベロッパーはその人員の多寡を問わず、いつも商品開発のロードマップ上で多くの業務を抱えています。
ディベロッパーとSEOチームの関係性が悪いことも、SEO施策や修正の重要性や必要性についてディベロッパーに納得のできる説明ができていないことも、その原因としてあるでしょう。
最もよく目にする本質的な障壁は、経営上層部がSEO施策の利点について理解しておらず、SEOに社内リソースを充てないことにあります。特にPPCとSEOを比較した場合にはこの違いは顕著です。
SERPにおいて実に94%のユーザーが有料広告を無視してスクロールしている一方でオーガニック検索として表示されるブルーのリンクは直接クリックする傾向にある (出典:Search Engine Watch(英文)) にもかかわらず、PPCよりもSEOの方が効果が高いと認識しているマーケターは約75%しかいない (出典:Databox(英文))という事実があります。
しかし、経営層が一堂に会するとき、各部署を管掌する役員が存在するのに対してChief SEO Officerなる役職は存在しないため、我々が積極的に声を上げていかなければならないのが現状です。
1.古い考えをトップから変えていく
CMOをはじめCレベルの役員はSEOやサイトの最適化が息の長いゲームであるという、ある種足かせとなるような考えを持ってきました。
彼らはこれらの領域の専門家からROIは簡単にトラッキングできるものではない、そもそも不可能である、またはSEO施策の成果を得るには時間がかかるというインプットを受けきたのです。
たしかに、サーチコンソールのようなGoogleが提供するSEOツールは、Google AdsやDoubleClickのようなPPCツールが提供するROI指標や即時的なお金の動きを提供してくれるようなものではありません。
このような考えが定着するようになり、結果として役員レベルの意思決定者の収益面における目標設定でこの領域への予算投下を行うことが少なくなるのです。
しかし現在ではこのように考える必要は全くなくなりました。
急速にデジタルトランスフォーメーションが進む今、デジタル領域の役員たちは以前よりも我々の情報発信に耳を傾けるようになってきています。さらに、データサイエンスや機械学習などの手法が増加する中で、より効果的なROIのトラッキング方法を開発するための技術的手法が自由に使えるようになってきました。
そうなると、SEO施策を実行し、役員レベルとこれまで行ってきた会話の内容を変えていく責任はSEOやWebプロフェッショナルたちの側にあるということになります。ではどのようにすれば良いでしょうか?
2.重要な指標に関するレポーティングの重要性
ページビュー、CTRそしてCLS (Cumulative Layout Shift)、これらの用語はSEOと開発チーム間のコミュニケーションで日々、共通言語として使われています。
これらの概念は、明確な会社の収益への寄与度という文脈に置かなければ、エグゼクティブ層にとっては何ら意味を持ちません。
実際に我々がコンサルティングしている見込み客やクライアントのほとんどは、自身のWebアセットに関して基本的な収益面の指標を気にかけている様子はありません。平均単価やチャネル毎の収益などの指標は、エグゼクティブ層が意思決定の基盤としている収益への関連性を着実に高めているものの、完全なる収益指標というわけではなくあくまで売上に関する指標なのです。
Wedや検索領域の責任者は、まさにCEOやCMOがPLを注視するように、自分たちの部署に関するROIを構成する要素を注視しておかなければなりません。
これはすなわち、自部署の人件費、ツールやその他技術使用料、また技術的なWeb/コンテンツ開発、PR、SNS運用に必要な企画・実装諸経費といったコストを総合的に勘案する必要があるということです。
これらの数字を見落としていると、経営層にはびこる古い考えを変えていくことが、さらに困難になるでしょう。
こうした数字が売上に対して割り引かれてはじめて、本当の意味で収益に関連する数値を把握でき、経営層の興味に応じた言語で話をすることができるようになります。このような言語を使って話ができるようにならなければ、開発リソースを優先してSEOに割いてもらうべき本質を彼らに理解してもらうことができず、適切な資金を分配してもらうことが困難になります。
そして、上記のような絵を描いておかなければ、SEO視点での目的の重要性をエグゼクティブ層に理解してもらえるようにはなりません。
3.現場レベルで古い考えの改善に取り組む
DeepCrawのSEO専門家によると、 「SEOの成功は一般的に考えられているよりもディベロッパーがその鍵を握っている」とのことです。しかし、SEOとディベロッパーでは異なるKPIを持っているように思われます。
我々SEOチームは収益というレンズを通してCMOのユーザー理解をサポートしているのに対して、ディベロッパーはパフォーマンスの面からユーザーを捉えています。結局は、両者とも業務でユーザーのことを考えているのが自然です。(もしそうでなければ、別に最優先で解決すべき課題が潜んでいるということになります)
それでは、両者の観点をいかにして合わせていけば良いでしょう?
あるストーリーを使って説明してみたいと思います。大量のリダイレクトチェーンをサイトに抱えていたクライアントの事例です。当クライアントのサイトは httpからhttps、 wwwから非www、トレイリングスラッシュありからなしへとリダイレクトやリダイレクトバックを大量に繰り返す構造になっており、クリーンなステータスコード200へ落ち着くまで実に6回もの301/302リダイレクトが発生していました。
当クライアントのディベロッパーチームはこれを問題視していませんでしたが、私はこれに対してGooglebotの(リクエスト過多による)浪費や負荷という側面よりも、むしろリクエストによるサーバー負荷という観点で、つまり彼らの言語を使って説明しました。その後、サーバーコストを削減できるという金銭的な側面について言及することが、CMOサイドの言語を使うことを意味します。
しかしながら、コスト削減はサーバー負荷の軽減だけで実現できるわけではありません。コードがライブ環境に反映され、その後再度変更される度に、トラフィックやサイトの収益に影響を与えてしまいます。
不適切に配置されたnoindexタグ、canonicalタグとnoindexタグの両方を含むページ、そして正規化によるリダイレクトループは全て、事前にしっかりとコントロールしていればライブ環境に反映する前に簡単に検出できるのですが、実際には手遅れになる場合が多いと言えます。
こうした状況になると、エンジニアチームは混乱し、ディベロッパーは夜遅くまで業務をする羽目になり、結果として他のプロジェクトへしわ寄せがくるなど、会社としての収益減につながってしまうため、この記事でご説明したようなコミュニケーションの方法が必要になるのです。
まとめ
同じような顧客の滞在時間やSEO施策のロードマップへの障壁に苦しみ続けるには理由があります。多くの歴史的、組織的な理由から、オーガニック検索経由のユーザー獲得チームは、デジタルマーケチームのようにCレベルの役員へのレポートラインがあった訳ではありません。 しかし、現在こうした隔たりはもはや意味を成しません。
現在の風潮としては、”デジタル” から最も離れたポジションの経営陣であってもビジネスモデルを更にオンライン化へとシフトする必要性を認識しており、そのために必要な社内リソースの確保へと議論を移すべき時に来ているのです。
こうした議論はCMO、CTOそしてCEOと行わなければならない内容です。(SEOチームとしては適切な施策実行のために)経営層からディベロッパー、解析チームに至るまで、あらゆるレベルのチームへとレポーティングすべき観点や指標があります。これは、サーチマーケティングやオーガニック検索によるユーザー獲得のエキスパートとして、意思決定者たち決断に役立てるにあたり頼りにする言語であると解釈することもできるのです。