非常によく練られたマーケティング戦略であっても、2020年に我々が経験している不確実性や混乱に対処しきれていない可能性があります。小売業のCMOやシニアマーケターであれば、今年は2019年時点では予想もしなかった困難に直面していることでしょう。
在庫切れや発送の遅延、スーパーの外にまで並ぶソーシャルディスタンスによる行列などの混乱の中で、今年は思わぬ成功を収めたブランドの事例もあります。
D2C(Direct-to-consumer:ブランドが流通業者を通さずお客様に直接商品をお届けするモデル)はグローバル市場に大きなインパクトを残しており、withコロナの時代がまだ続くと思われる中で、D2Cはさらに拡大が期待される領域です。
D2Cとは?
「D2C (Direct-to-consumer)とは、従来の店舗や仲介業者を通さずに直接購買者に対して製品を生産・販売する業態のことである。」 (cbinsight.com)
すでに今年D2Cブランドから何かを購入したことがあるかもしれません。ロックダウン、商品在庫の不足、地元での商品購入に関するパニックによりこれまでのような購買行動が完全に変わってしまったことを思い出してください。
D2Cの例:ロックダウンが始まる前にイタリアに休暇で滞在していたあるマーケターの話です。イタリアから帰国するとトイレットペーパー不足の問題に直面しました。解決策を探す中で彼女はオンライン検索を行い、Who Gives A Crap(英文サイト) というサービスを見つけました。ここでは生産する会社に直接トイレットペーパーを発注でき、数日後に自宅まで届けてもらうことができます。
このようなシナリオが、まさにD2Cが急速に拡大している背景にあります。COVID-19は小売業界にまたたく間にインパクトをもたらすことになる新しい、これまで注目されていなかったブランド躍進の足がかりとなったのです。これらDC2小売業者の存在はCMOやCEOを動揺させている部分はあるでしょうが、こうした事業者の拡大から学んで自社のマーケティング戦略に活かすことのできる教訓があります。
CMOへの教訓
確かにこれら新規競合他社が自社にとっては脅威であると映るかもしれませんが、Cレベルの観点から見れば彼らから学ぶべき非常に重要な教訓があるのも事実です。この教訓を味方につけ、次の(おそらくZoomでの)役員会議の戦略策定に活かしましょう。
直近のマッキンゼーによる研究では、グローバル企業のCEOのうち実に83%がマーケティングをビジネスの成長の主要な源泉であり、他の経営陣に対して自社のマーケティングチームのアウトプットにもっと目を配ってほしいと期待していることがわかりました。これは良いこと(投資の拡大)でもあり、時に不安の種(ROIが必要になるため)にもなります。
教訓1:ECファーストのアプローチ
まだご覧になっていない場合は、ぜひDeepCrawlとLuke Carthy氏によるウェビナー、「ECサイトのSEOにおけるFAQへの対応」(英文サイト)をご覧ください。このウェビナーでは、Luke氏が今や消費者はECファーストのマインドセットを持って購買行動を行うようになっていることについて言及しています。
これはすなわち、消費者が購買行動を起こす際に物理的に店舗を訪れて商品を探すのではなく、オンラインをまず第一に想定するようになってきているということです。D2Cモデルはオンラインでの訪問者に向けて販売するという明確な戦略を掲げていることから、自然とこの流れの中で良いポジショニングを獲得しているのです。
オフラインとオンライン両方で事業展開する小売業者であっても、このECファーストの価値観を取り入れて消費者の消費を最大化することができます。例えば、無料のクリック&コレクトのオプションを追加することで、消費者とリアル店舗で直接会うことができます。そしてリアル店舗を訪れた消費者は商品受け取り日に店内を見て回ってかごに商品を追加するかもしれません。
在庫管理もまた、しっかりと対応しておくべきポイントです。最終的に商品が在庫切れだったページに到達してしまうのは実に粗末なUXであり、特にカテゴリ別のランディングページにそうした表示が出てくるのは好ましくありません。もし適切であれば事前注文機能の使用を検討してみましょう。
Lay-Z-Spaという温水浴槽を販売するブランドの例を挙げます。これは大幅な需要拡大を受けて昨年英国で業績を拡大したブランドです。在庫を拡大するタイミングを図りかねていた小売業者が多い中で、消費者は直接Lay-Z-Spa社のサイトを訪問して、配達予定日の数ヶ月前であっても、浴槽の事前注文により在庫を確保することができました。
教訓2:シンプルなサイト構造
前述のWho Gives A Crap社の例を再度取り上げてみましょう。このブランドのサイトにいくと、非常にシンプルな構造であることがわかります。商品はわずか6種類しかありません。
これによりユーザーにとってEC体験が非常に簡単なものとなります。購入までに必要な意思決定が多いわけではなく、途中でどこにいるかわからなくなるような大量のページが存在するわけでもありません。同社サイトにおける典型的なユーザー体験は次のようなものです。
- Googleでトイレットペーパーを検索
- Who Gives A Crap社のサイトをクリック
- リサイクルトイレットペーパー(3層)かプレミアムトイレットペーパー(3層)を選択
- 24ロールか48ロールを選択
- 定期購入か1回限りの購入か選択
- 決済
簡潔化が様々な観点から有効です。商品数が6個というのは珍しいので、同社と同じレベルでの単純さである必要はありません。しかし、機能していないページを削除したり内部リンク構造の改善を行うことで、ユーザー体験の煩雑さをすぐに軽減でき、検索エンジンがインデックスしやすくなります。
半数以上のD2CブランドがSEOをユーザー獲得の最適なチャネルであるとしており、これは他の小売業者もマーケットシェアを取り戻すためにアクションを起こさねばならないということです。Luke Carthy氏が言及するように、「 2020年の第4四半期以降に収益改善をしたいのであれば、ブランドはオンラインでのユーザー体験を改善しなければならない」ということです。
教訓3: ブランドストーリーの提供
D2Cブランドを語る上で、商品・サービス提供を推進する明確なブランドストーリーの重要性は避けては通れません。
Harry’s社(英文サイト)は、大手の競合他社でよく見られるような小手先の戦略や主張を一切行わずシンプルなカミソリを製造・定期販売するメーカーです。同社のブランドストーリーは、実際に量販店で大量の選択肢に迷ってしまったという創業者の個人的な経験から生まれたものです。
Casper社(英文サイト)は、寝転がってみるとほぼすべての人が快適と感じられるマットレスを提供しています。同社は、消費者は自分の求めるものにあった選択ができるほど各マットレスの技術的仕様を把握していないと考え、マットレスを検討する際に生じる(消費者側の)混乱を取り除くことにしました。
これらのストーリーは潜在顧客にソリューション(または付加価値)を提供するブランドに依存しています。これはどんなビジネスでも活用できる教訓であり、強烈なストーリーがない場合でも当てはまります。商品選択用のウィザードから注文当日の配送まで、これらはユーザーが商品をカートに追加して決済に進む説得材料となるものです。
いまCMOがすべきこととは?
奇しくも新型コロナウイルスが我々の購買行動を変えたことで、この先数ヶ月にわたって絶えずD2Cブランドとの競争の中に置かれることでしょう。敗北感を感じるのではなく、CMOとしては自社のオンラインでの存在感を整理し、各ツールを活用し、潜在顧客の利益となる施策を打ち出していかなければなりません。